アリゾナワイン、どんな味がすると思いますか?
暑くて乾燥しているアリゾナでワインなんて作れるの?って疑問に思った方もいるのでは?
意外かもしれませんが、アリゾナワイン、美味しいのが結構あるんですよ。
この記事では前半でアリゾナワインについて、後半でソノイタのワイナリーでのテイスティングのレポートをお伝えします。
アメリカのワイン
アメリカのワインといえばナパなどカリフォルニアのワインが有名ですよね。
Wikipedia/American Wine に掲載されている2016年の州ごとのワイン生産量のデータを見ると、予想どおりカリフォルニアのひとり勝ち。
その後にワシントン、ニューヨーク、ペンシルバニア、そしてオレゴンと続きます。
アリゾナでは19万ガロン(71.9万リットル)、アメリカ全土の生産量の0.02%のワインが作られていて、全米30位の位置づけです。
アリゾナワイン
生産地
アリゾナの主なワイン生産地は3つあり、そのうち2つは生産地認定を受けています。
- Verde Valley
- Sonoita(Sonoita AVA – 1985)
- Willcox(Willcox AVA – 2016)
品種
厳しい日照と標高の高い地域(4000~5000フィート)にみられる激しい寒暖差に耐え得る品種がアリゾナに適したブドウです。
よく栽培されている品種には
- マルヴァジーア・ビアンカ(Malvasia Bianca)
- テンプラニーリョ(Tempranillo)
- グルナッシュ(Grenache)
- ムールヴェードル(Mourvèdre)
- グラシアーノ(Graciano)
- プティ・ヴェルド(Petit Verdot)
- サンジョヴェーゼ(Sangiovese)
- タナ(Tannat)
などがあります。
栽培
アリゾナでのブドウ栽培には難題がふたつあります。
ひとつは晩春の霜、もうひとつは8月中旬~9月のブドウの成熟期~収穫期と重なるモンスーンの大雨です。
普通はアリゾナが暑すぎるのと乾燥しすぎているのがブドウ作りのネックになると考えるものだと思いますが、実はタイミング外れの低温と雨のほうが深刻な問題なのです。
ヴィオニエ (Viognier) など過酷な日照でダメージを受けやすい白ブドウの品種もあり、対策として天蓋を使って陰を作り果実へのダメージを防ぎます。
一方激しい寒暖差には恩恵もあり、寒暖差によりタンニンの形成が促進されるので、PH値が高いブドウでも質の高いワインができる可能性が高まります。
アリゾナワインの歴史
禁酒法前のアリゾナワイン
歴史をさかのぼると、1703年にイエズス会宣教師だったスペイン人キノ神父が、ブドウを栽培しミサのためのワインを作っていたとの報告があります。
しかし、スペインからの宣教師たちが定着した地域はブドウ作りにあまり適していなかったこともあり、当時ワイン作りは盛んではなかったようです。
その後、1870年から1880年にかけてアリゾナでワインの生産が始まりますが、1919年の禁酒法施行に先駆けて1914年にアリゾナ州法で禁酒法が施行されたため、ワイン作りは途絶えました。
アリゾナワインの生みの親 Dr. Dutt
アリゾナワインの創始者ともいえる重要な人物が、ゴードン・ダット博士(Dr. Gordon Dutt)です。
ワインの研究も盛んなカリフォルニア大学デ―ビス校(UC Davis)で土壌学の博士号を修めたダット博士は、研究を通じてワイン産業との関わりがあり、ワイン用のブドウに精通していました。
アリゾナ大学からオファーを受けツーソンに移り住んだ博士は、当時アリゾナにワイナリーがひとつもないことにショックを受けたと語っています。
彼のアリゾナ大での仕事は水質と土壌の関係性の調査でしたが、アリゾナにブドウ畑に適した土地がないか個人的に目を光らせる日々でした。
美味しいブドウを作る気候と土壌?
ある日、博士はアリゾナ州・ユマで食用ブドウのブドウ畑を視察していました。
「アリゾナの気候ではワインは甘くならないので、ワイン用のブドウなんて作れるわけがない。」
農家の一言が博士の心に引っかかります。
果たしてそうなのか?
博士はさらに考えました。
カリフォルニアでは、良いブドウが採れるのはカリフォルニアの気候がブドウ栽培に適しているからで、そこに土壌は関係ないという考えが通説でした。
でも、博士は納得していませんでした。
彼はブドウ作りは気候だけでなく土壌も鍵を握っていると思っていたのです。
気候に関しては、ことアリゾナでは少し車を走らせれば気候が異なる地域に行けるので、涼しい方がよければ標高の高い地域に行き、暑い方がよければ標高の低い地域に行けばいい。
水に関しては、土壌に適量の塩を含ませることで、水分が地中深くに吸い込まれることなく畑に行き渡らせられるのではないだろうか。
ワイン用のブドウは他の農作物と比べて少ない水で栽培できるし、ワインとして樽で寝かせておけば、穀物と同様に豊作の年に蓄えて不作の年に備えることができる…。
博士はアリゾナでのワインの可能性を探ってみたいと思い立ちます。
こうしてダット博士は、1973年、ソノイタで試験的なブドウ畑 Ignacio de Babocomari Ranch を始めます。
翌年初めてできたワインはなかなか良い味でした。
博士は自分のワインが世間に認められる味なのか確かめるべく、1975年にテイスティングの会を開きます。
そこでつけられた点数から判断して、博士のワインは平均的な味と評価されたことがわかり、それは博士がきちんと軌道にのっていることを確認するのに十分な結果でした。
Four Corners Project
1976年、ダット博士は Four Corners states と呼ばれるアリゾナとアリゾナに隣接する3つの州(ニューメキシコ、コロラド、ユタ)でワイン用のブドウを栽培する可能性を探るため、助成金申請のための提案書を提出します。
彼は経済発展の糸口を探している各州の政治家たちに支持され、Four Corners Commission から9万5千ドルの助成金を獲得します。
博士はカリフォルニア大学デービス校でワイン学の博士号を取得したウルフ博士(Dr. Wade Wolfe)をワインメーカーとして雇いました。
そして、それぞれの州の既存のブドウ畑で二人が選んだ品種のブドウを育て、採れたブドウからワインを作り品質をテストしました。
研究用のワインは、オーク樽で熟成するなどの工程を省いた極めて試験的なものでしたが、それでも十分飲むに値するものでした。
このプロジェクトを通じて、ブドウ畑の所有者たちは、カベルネやシャルドネといった一般的な品種以外にあまり知られていない品種にも出会うことになります。
現在アリゾナが マルヴァジーア・ビアンカやタナ、そしてローヌ地方の品種であるシラーやヴィオニエなど、当時はまだ知名度の低かった品種で知られるようになったのはこのプロジェクトの結果です。
Sonoita Vineyards のはじまり
そんな研究の土壌に選ばれたブドウ畑のひとつが、フェニックスのイエズス・スクール(Jesuit school)の創始者 ブロフィー(Brophy)家出身の ブレイク・ブロフィー氏(Blake Brophy) が所有するソノイタにあるブドウ畑でした。
プロジェクトをすすめるうちに、ダット博士はアリゾナがワイン生産地になれる可能性を十分信じられるようになり、ブロフィー氏が所有するソノイタのブドウ畑に投資します。
さて、当時、商用のワイナリーを始めるにはアリゾナの州法がネックになっていました。
しかし、ブロフィー家が政治家との橋渡し役を果たしたおかげで無事州法が改正され、ブドウ畑の所有者は最大7万ガロンのワインを生産し自分たちで販売できるようになりました。
ダット博士は1979年にアリゾナ初の商用のブドウ畑を、1983年にワイナリー Sonoita Vineyards を開きます。
初年の生産量300ガロンに始まり、今では1万ガロンを超えるワインを生産するようになりました。
Sonoita Vineyards はアリゾナ州で3番目にできたワイナリーですが、当時アリゾナ州で初めての自分たちの畑で採れたブドウだけを使ってワインを作るワイナリーでした。
ワイナリーがオープンして6年後の1989年、ロサンゼルス・タイムズのワイン評論家がブッシュ大統領就任式の晩餐会に Sonoita Vineyards のワインを2つ選びました。
ブッシュ大統領の晩餐会まで行けたとき、私たちのワインが本当に世間に受け入れられたのだと実感した、と博士は語っています。
ダット博士はツーソンの自宅に住み、今も時折ワイナリーに顔を出します。
ワイン作りは三代目の孫娘ロリ・レイノルズが担当しています。
ソノイタ地区には多くのワイナリーがありますが、彼らが現在あるのは40年以上前のダット博士のプロジェクトの恩恵なのですね。
ソノイタ地区
Arizona Wine Grower’s Associationによると、ソノイタ地区の気候と土質は、高標高で寒暖差の激しいスペインのリベラ・デル・ドゥエロ(Ribera Del Duero)や南フランスと似ていて、カリフォルニアのパソ・ロブレス(Paso Robles)とほぼ同じなのだそうです。
あなたがツーソンからソノイタに向かってドライブしていくとき、徐々にサボテンが減り、なだらかな平野と樫の木が目立ち始め、景色が変わってくるのに気づくと思います。
雰囲気はゆったり、のどかすぎるほどのどかで、観光客が多く商業化しているナパなどの有名なワインカントリーとはまったく違いのんびりしています。
ワインのお値段も、カリフォルニアと比べるとあまりお高くない印象です。
ブルゴーニュ地方と同質の土壌
ツーソンから60マイルのソノイタは標高5000フィートに位置します。
酸性の表層の下に Terra Rossa と呼ばれる粘土質の層があり、その下には一般的な石灰層が広がっています。
ダット博士が植えたピノ・ノワール種はブドウの根が酸性の表層を突き抜けて粘土層に到達するまでに4~5年かかり、その間はあまり質が良くなかったのだそう。
博士によると、ソノイタワイナリーの土壌はフランス・ブルゴーニュ地方のコート・ドール(Cote D’Or)と酷似しているのだそうですよ。
テイスティング
Sonoita Vineyards
さてさて、先週末ダット博士が始めた Sonoita Vineyards に遊びに行ってきました。
眺めの良いカジュアルな雰囲気のワイナリーです。
外には大きな木の下にテーブルがあるので、食べ物を持ち込んで、テイスティングの後に好きなワインをグラスかボトルで買ってピクニックするのも良さそうですね。
このワイナリーを訪ねるのは今回が2度目。
前回はアリゾナの夏の力強い太陽を思わせるマルベック(Malbec)が美味しくて印象に残っていました。
テイスティングはメニューから飲んでみたいもの5つを選び印をつけると、ワイナリーのスタッフが最適な順番で注いでくれます。
どれを選んでいいかまったくわからないときは、値段の高いのから順番に印をつけたり笑、ワイナリーにおススメを聞いておまかせしたりしてもいいのでは。
テイスティングは人数分をそれぞれのグラスでじっくり味見するのもいいし、グラスひとつをふたりでシェアしてもOKなので、少しづつ味見してワイナリーをはしごするのも楽しいですね。
この日 Sonoita Vineyards で好きだったのは、一番最後のデザートワイン Tiger’s Treat でした。
あなたがわたしのように普段甘口のワインには興味がない人でも、ワイナリーで出される上等のデザートワインはいつもとても美味しいので、機会があったら試してみると新しい発見があるかもしれませんよ。
ちなみに、ワイングラスはテイスティング料金に含まれているのでお持ち帰りできます。
ソノイタ地区のワイナリーをはしごする人は、グラスを持ち込むと割引きになりますよ。
Callaghan Vineyards
2軒目に立ち寄ったのは、Callaghan Vineyards です。
ここのワインは、世界的に著名なワイン評論家ロバート・パーカー氏から称賛され、ホワイトハウスでの晩餐会で供されるなど評判の良いワイナリーです。
テイスティングはレギュラー・テイスティングとリザーブ・テイスティングがあり、今回はリザーブ・テイスティング(3種類)を試したのですが…
超おススメです!!!
一番最初に飲んだ Greg’s Petit Manseng(プティ・マンサン) 2016 という白ワインが、得も言われぬ奥の深い味わいで、素晴らしかったです。
このワインをボトルで買って、そよ風の吹く木陰で美味しいチーズやハムと一緒に飲んで、そのままお昼寝できたら幸せだろうな~?
おわりに
アリゾナワイン、いかがでしたか?
ソノイタ地区にはまだまだほかにもワイナリーがありますし、ウィルコックス地区も気になりますね。
車でワイナリーに乗りつけて、ささっとケース買いして去っていく通っぽい人たちも結構いましたよ。
ぜひお気に入りのアリゾナワインを見つけてみてくださいね。
参考:
This man helped found the Arizona wine industry with some grains of salt by Richard Ruelas for The Republic | azcentral.com
A CONVERSATION WITH Michael Pierce by Laurie Daniels for WINES VINES ANALYTICS
The Soil Master: Dr. Gordon Dutt, Sonoita Vineyards by TAJ | The Cork & Demon
Arizona wine on wikipedia.org