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ニーベルングの指輪
ワーグナーの「ニーベルングの指環」をご存知ですか?
なにそれ?と思った読者の方も、このメロディーならどこかで聞いたことがあるのでは?
ワーグナーは、この「ニーベルングの指輪」で、ライトモティ―フという特定の人物や状況などと結びつけて短いテーマ的メロディーを繰り返し使う手法を多用しています。
ライトモティーフは、そのキャラクターが舞台に登場している場面だけでなく、そのキャラクターのことを別の登場人物が語っているときなどにもじゃんじゃん聞こえてこるので、全4部作終える頃には、かなりのメロディーが観客の記憶に残ります(途中たくさん眠り過ぎなければ)。
わたしがとりつかれてしまったのが、この巨人のライトモティ―フ。
そして、巨人のライトモティーフが、気を抜くとジョン・ウイリアムス作曲のダースベイダーのテーマに脳内変換してしまったりします。
なんだか似てますよね。
「ニーベルングの指環」は全4部作からなる楽劇(Musikdrama)で、通しで約15時間、上演には少なくとも4日かかる大作です。
- 序夜 「ラインの黄金」(Das Rheingold):2時間40分
- 第1日 「ワルキューレ」(Die Walküre):3時間50分
- 第2日 「ジークフリート」(Siegfried):4時間
- 第3日 「神々の黄昏」(Götterdämmerung):4時間30分
一番最初の「ラインの黄金」は2時間40分と一番短いので、この作品だけを上演するケースは比較的目にしますが、全4部作(リングサイクルと呼ばれます)が通しで上演されるのは稀かつ画期的なことといえますね。
アメリカでリングサイクルを最近上演した主なオペラ・カンパニーは下記の5つ。
- サンフランシスコ・オペラ
- メトロポリタン・オペラ
- ワシントン・ナショナル・オペラ
- LAオペラ
- シアトル・オペラ
上記のオペラカンパニーは、上演実績があるのでまたいつかリングサイクルを上演する可能性が高いといえます。
いつか見てみたい方は要チェック!
さて、サンフランシスコ・オペラの2018年のリングサイクルは
- サイクル1:6/12 – 17
- サイクル2:6/19 – 24
- サイクル3:6/26 – 7/1
わたしたちはサイクル2に行ってきました。
サンフランシスコオペラに限らず、いつかリングサイクルを体験してみたい読者のかたのお役に立てればと思い、気づいたことを書いてみます。
リングサイクルを楽しむメンタリティ
まずはリングサイクルを観る心構えから。
眠たくなったら寝てしまう。
15時間も続くんです。
先は長いので、気楽にゆる~く楽しみましょう。
寝たら字幕を逃してあらすじがさっぱりわからなくなるかも?とご心配のあなた。
大丈夫です。
ワーグナーさまがこれでもかと話をひっぱりまくってますので、目が覚めた時に場面が明らかに変わって何のはなしかさっぱりわからない、ということは恐らくないでしょう。
1幕全部うつらうつらとして何も覚えていないよりは、15分くらい本気で寝てしまってすっきりした頭で続きを見るほうがいいですよ。
なんて、観客が眠るのを嫌って、バイロイト音楽祭会場の椅子もあえて硬くて座り心地の悪いものにしたワーグナー先生から怒られそうですね。
あ、いびきは迷惑なので、連れの方にいびきをかき始めたら起こしてもらえるよう前もってお願いしておきましょう。
SFオペラ・シンフォニーホール近くの駐車場
駐車場はオペラハウスのまわりにたくさんありますが、わたしのおすすめは、オペラハウスに近いのと上演前後に食事をするのに便利なPerforming Arts Garage(360 Grove Street)です。
オペラやシンフォニーのコンサートがあるときはイベント料金で一律前払いです。
今回は$18でした。
なお、リングの上演時間はとても長いので、インターミッションを挟むと真夜中を過ぎてしまうことがあります。
ガレージは夜中の12時に閉まってしまうところもあるので気をつけてください。
最終日の日曜日はプライドパレードの日と重なっていたのですが、普段のイベント料金は$20なのに$40に値段を釣り上げているぼったくり駐車場も中にはありましたので、ご注意を。
オペラハウス周辺の美しい建築物
オペラハウス (War Memorial Opera House) のまわりは City Hall など美しい建物が多いエリアです。
オペラハウス自体も1932年にオープンした品のある建物。
サンフランシスコ講和条約署名の舞台となった、日本人にとっては歴史的な場所です。
War Memorial Opera House とセットでデザインされた Memorial Veterans Building の間の courtyard park は小さいけれど緑豊かで、
お天気が良くて暖かければ、そこで犬を遊ばせる人たちや、これから演奏する音楽家が楽器を持って通り過ぎるのを眺めたりしながら、長ーい上演前にのんびりできます。
写真は右が War Memorial Opera House、左が Memorial Veterans Building、中央は道路を挟んで美しくそびえたつ City Hallです。
服装:SFオペラの場合
蝶ネクタイに白いジャケットで決めている男性、カーペットの上をトレインがひきずるイブニングドレスの女性も見かけましたが、ジーンズにポロシャツの人もいて、さすがアメリカ、基本なんでもあり。
オープニングナイトでないならガチガチにお洒落しなくても大丈夫な雰囲気でしたよ。
特にリングサイクルは長いので2日目以降は一気にラクな服装度が高まっていました。
面白かったのは、頭に不思議な飾りを付けている女性が多く、ウケねらいではなさそうだったのですがお洒落にも見えず…。
サンフランシスコ・スタイルなのでしょうか?
とはいえ、折角普段できないドレスアップを楽しむ場でもあるので、お洒落派の方はとことんキメて楽しんでほしいです。
オペラで服装よりも注意すべきこと
ドレスコードよりもなによりも注意してほしいのは、遅刻しない!です。
上演が始まると次のインターミッションまで客席には入れません。
そのあいだ、オペラハウス内に設置されたモニターのあるエリアに案内されて、そこで扉の向こうで繰り広げられている様子が映し出されるのを見ることになります。
リングサイクルは一幕がとても長いですし、初日の「ラインの黄金」にいたってはインターミッションなしですので、たぶんお仕置き部屋にいる気分になってしまうのでは?
ちなみにわたくし、某ヨーロッパの老舗オペラハウスでお仕置き部屋を経験しております(遅刻ではありません)。
あると便利なオペラ小道具
舞台小物がたくさんあるので、オペラグラスがあるとより楽しめますよ。
ファッションに興味がある方は衣装の詳細もじっくり観察できますね。
インターミッション
初日の「ラインの黄金」以外、25分のインターミッションが各2回あります。
Refreshment のスタンドで飲み物や食べ物を買えますが、かなり長い列になっていました。
列に並びたくない方は予約できます。
おすすめはイタリアンサンドイッチです。
あと、リングサイクルだけ特別だったのかもしれませんが、家から果物やサンドイッチなど食べ物を持ち込んでいる人を相当数見かけました。
入館の際のバッグチェックがないので持ち込み可能なのですね。
客席で頂くのでなければ特にお咎めなしでしたよ。
観客が大理石のひんやり気持ちいい階段にすわって、飲んだり食べたりする。
ピクニックのような不思議なインターミッションでした。
トイレはオペラハウス内に何か所かありますが、個室数が少ないトイレが多いので、女性の方でトイレに行きたい方はインターミッションに入ったらすぐに猛ダッシュで一番近いトイレに向かわないと、ものすごく長い列に延々と並んでインターミッションが終わってしまうことになります。
上演中にトイレに行くと、インターミッションまで席に戻れずお仕置き部屋行きですのでご注意を。
ギフトショップ
リングサイクルのTシャツを着ている人をちらほら見かけて、わたしも欲しくなって最終日の上演前に行ってみましたが、お客さんでごった返していました。
お買い物は最終日は避けて、早目に行くほうがいいでしょうね。
実はサンフランシスコ・オペラのショッピングバッグが密かに欲しかったのですが、売り場にはなくてがっかりしていたところ、レジに山積みされていました。
ひとつ50セントです。
SFオペラ・シンフォニーホール近くのおすすめカフェ
オペラハウス内にもカフェやレストランがあり、賑わっていたし、美味しそうなにおいも漂っていましたが、オペラハウス近くでおすすめのカフェがありますのでご紹介します。
Chez Maman
401 Gough St
リングサイクル最終日、日曜日の上演が1時スタートのマチネーの時間帯だったので、ブランチをいただきました。
そば粉のクレープ (Savoyarde: Potatoes, Proscuitto, Shallots, Cornichons, Swiss Cheese) も、スモークサーモンの入ったクロック・マドモワゼルも美味しく、おなかいっぱいに。
お店のお姉さんがいつ行っても明るくてとてもかんじがいいのです。
以前夜に行ったときに食べた、エスカルゴ、ビーフ・タルタル、ムール貝も美味しかったです。
人気店のようで、特に夕方は待つことになるかもしれませんが、待つ甲斐がありますよ。
Chez Maman のほかにもまわりにはお洒落で美味しそうなレストランやカフェがたくさんあります。
リングサイクル・今後の米国内上演予定
2019 年
- サイクル1: 3/9 – 27
- サイクル2: 4/29 – 5/4
- サイクル3: 5/6 – 11
サイクル1はそれぞれの上演の間の日数が長いので、通しで全部観るならサイクル2か3がおすすめです。
2020年
- サイクル1:4/13 – 18
- サイクル2:4/20 – 25
- サイクル3:4/27 – 5/3
リンクから Lyric Opera of Chicago のリングサイクルのウエブページをご覧いただけますが、2年先の上演のためのページがきっちり作り込まれていて、オペラカンパニーの気合と盛り上がりを感じますね。
なお、サンフランシスコ・オペラは、前回の上演が7年前の2011年ですので、おそらく数年後にまたお目にかかれるのではないかと思います。
リングサイクルの王道、バイロイト音楽祭
近場でいつ上演されるかわからないリングサイクルを待つくらいなら、いっそのこと本家本元のバイロイト音楽祭に行ってしまう、というワグネリアン(ワグナーファン)な読者の方もいらっしゃるかと思います。
バイロイト音楽祭は、ワーグナーがリングサイクルを上演するために創設した音楽祭です。
会場は冷房なし、英語字幕もありません。
ですので、バイロイト音楽祭でリングサイクルを真に楽しめる人は、あらすじと歌詞に精通し、なおかつ蒸し暑い会場を正装で4日間過ごす健康で忍耐力のある人、といえると思います。
バイロイトで『ラインの黄金』を観たときのことはまた別の機会に記事にしますので、興味のある方は楽しみにしていてくださいね。
リングサイクルを体験して
今回、一体どれだけうんざりするのか怖いものみたさで体験したリングサイクル。
最後まで全部見て聴いて、ニーベルングの指環という作品の凄さと、世界中にワーグナーに熱狂するファンがいる所以を知ってしまいました。
わたしたちが観たサイクル2は毎回ほぼ満席、まわりの観客もほとんどが通しでチケットを買ってリングサイクルを体験しに来ている方ばかり。
演奏が始まる前からブラボーの掛け声で迎えられる指揮者 Donald Runnicles のカリスマ性も凄かったです。
会場の熱狂ぶりから伝わる文化度に、アメリカも捨てたものじゃない、とほっとしたのでした。
4日間は真にワーグナー・リングサイクルの祝祭。
興味がおありの方にはぜひいつかどこかで体験してほしいと思います。
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