もしあなたがいつかリヨンのポール・ボキューズ・レストランに行く予定なら、ネタばれで未来の感動が半減してしまうかもしれませんので、この記事は読んではいけません。
そうでないあなたは、今日はわたしと一緒にポール・ボキューズの別世界ディナーの3時間+を覗いてみませんか?
美食の街リヨン
パリからTGVで約2時間のリヨンは、知る人ぞ知る世界有数のガストロノミー・シティーのひとつです。
趣きある石畳の旧市街にはレストランが軒を列ね、星付きの高級レストランからリヨン独特のブション(bouchon)と呼ばれる郷土料理を出すレストランまで、お昼どきはどのテラス席もとても賑わっています。
近隣をローヌ川とソーヌ川が流れ昔から水に恵まれたリヨン。
豊かな食材に加え、ブルゴーニュ、ボジョレー、コート・デュ・ローヌなど多数のワインの産地に近いこともリヨンが美食の街である理由のひとつですね。
リヨンのポール・ボキューズのメニュー
ポール・ボキューズでは単品・アラカルトでもオーダーできますが、わたしたちは折角だから一通り体験してみようと、前菜、肉か魚の一品、チーズ、デザートのクラシックメニューを頂きました。
このクラシックメニューに60ユーロプラスするとブルジョワメニューとなり、メインが肉と魚の2品になります。
さらにお高いコースメニューもあります。
Paul Bocuse Restaurant のウエブページから季節ごとのメニュー(pdf)をチェックしたり予約を入れられます。リンクは英語版です。
実際に食べてみた感想は、このレストランを最大限楽しむには、コース料理を選んで一連のディナーの流れ丸ごとを食体験として体感するのがベストなのではと思います。
ちなみに、男性はジャケット必須です。
ネクタイはなしで大丈夫。
教授曰く、ポロシャツの人が一人いたらしいのですが、彼のグループはわたしが気づかないほど隅のテーブルに追いやられていたようですので、ジャケットなしでも入店拒否はされないと思いますが、念のため。
ではでは、2019年6月にイケメン男子2名と頂いたポールボキューズのクラシックメニューを見てみましょうか。
アミューズブーシュ
最初の一皿。
アミューズブーシュ(Amuse-bouches)がちょこんとふたつ。
どちらもほのかな塩味のサクッサクのタルト生地がベースです。
アボカド色の方もチーズ色の方も、〇〇な味なんです、と簡単に言い表せない複雑さを一口サイズに完結させてあって、唸りました。
その夜のご飯の期待がマックスで高まった瞬間です。
最初のアミューズブーシュの後にもう一皿運ばれてきました。
ベースのジュレがそれは美味しいコンソメで、ムースのオレンジの風味と口の中で融け合います。
この可愛らしいアミューズを、ジュレの中のめちゃめちゃ細かく刻まれた野菜と、ビーツ色のサクサクの焼きものの別次元の食感を楽しみながら、一口で食べちゃうのです。
すぐには飲み込んでしまいたくない一品でした。
前菜
エスカルゴ
前菜にはエスカルゴ(Burgundy snails from the Saône valley, traditional herbs butter and almonds)を選びました。
エスカルゴはアメリカでも食べる機会は割とありますが、フランスで本物を食べてみたかったのです。
まず、こんなに大きくて肉厚で柔らかいエスカルゴは初めてでした。
まるでサザエみたい!
そして、ソースが完璧です。
配合が絶妙で、全ての材料がバターを媒介してあますことなく融合しています。
あぁ?
これを食べて、わたしが今まで自作していたエスカルゴバターは、本物とは100万光年離れた距離にあったことを悟りました(笑)。
ローストされたアーモンドとフワフワのアワアワ、さらにその下に隠れていたサクサクの焼きもの…。
このエスカルゴ、忘れられません。
もちろんソースの最後の一滴さえパンでぬぐい取り、残さず完食です?
クネル
前菜に高校生男子が選んだのは、クネル(Quenelle) というリヨンの名物料理。
クネルは魚のすり身(川カマスがよく使われます)に卵やバター、クリームなどを加え、ラグビーボールのような形に成形し、蒸したりオーブンで焼いたりしてソースをかけたもの。
リヨン市内のブションの定番料理のひとつです。
日本人のわたしたちには、フワフワの洋風ハンペンといったらイメージが湧きやすいかな。
このクネル、前菜とはいえお腹いっぱいになりそうな大きさでした。
もしあなたが少食なら、クネルは別の日に街のブションで食べる方がいいかもしれませんね。
メイン
スズキのパイ包み
前菜が終わり、楽しみにしていたメイン料理の登場です。
メインでどうしても食べたかったのが、スズキのパイ包み(Sea bass stuffed in puff pastry shell, Choron sauce)。
ポール・ボキューズのシグニチャーディッシュのひとつでもあるこのスズキのパイ包み。
魚のフォルムといい、パイ生地で造り込まれた鱗といい、ソースの色といい、わたしにとってまずビジュアル的にああ食べてみたいと思わずにはいられない一品です。
ただし、このスズキのパイ包みは2名様からオーダー可。
ひとりでは頼めないのです(お金を払えば可能なのでしょうけど…)。
今回は、私がまだフランスに発つ前からスズキのパイ包みに対する野望を語っていたので(笑)、教授がつきあってくれて晴れてこの憧れの料理を頂くことができました。
本当はステーキが食べたかったかもしれないのに、ありがたいです。
テーブルの向こうに銀のお盆にのったスズキのパイ包みまるごとがうやうやしく登場。
ビデオ撮影も快くOKしてくれました。
ちなみに、最初はこんなレストランで写真やビデオを撮っていいのかな…と心配していましたが、ウエイターさんたちはどうぞどうぞと寛容で、周りのテーブルも全員撮影していました。
お店の宣伝にもなるし、そういう時代なのですね^^
ウエイターさんが表面のパイ皮を外すと、尾頭付きのスズキからホワっと湯気が上がります。
サクサクのパイ生地、しっとり絶妙な火の通り具合のスズキ、そしてそれはそれは美味しいソース。
憧れの料理、堪能しました。
ステーキ、フォアグラのせ
高校生男子がメインに選んだのがこのステーキ(Filet of Charolais beef and pan-cooked foie gras, bordelaise sauce)。
ステーキに負けないインパクトのフォアグラがステーキの上に鎮座しておられます。
味見させてくれたのですが、それはもう夢のような味でした。
口に入れた瞬間に瞳孔が開くような。
あなたが肉食でフォアグラもお好きなら、このステーキ気に入ると思いますよ。
駄)探偵活動:隣のテーブルのメイン
大変下世話ですが…
お隣はアメリカンアクセントの英語を話す4人家族でした。
ご夫婦はわたしと同じスズキのパイ包み。
小学6年生くらいの女の子はロブスター料理。
子どものころからこんなレストランの料理を食べ慣れてる子たちってどんなグルメな大人に育つのでしょうね!
チーズ
メインの次はチーズ(Fresh and matured cheese)がズラリ。
好きなものを好きなだけどうぞということで、まずは私にどれにしますか?とお伺いが。
あ、そうそう、ウエイターさんは徹底してレディーファーストなので、女性の方がまず最初に色々質問されることになります。
わたしはフランスのチーズに関してはほぼ無知。
ブリーとカマンベールくらいしかわからないので、素直に I have no idea! と言って、全部説明してもらいました。
ウエイターさんは皆英語堪能で、チーズひとつひとつ丁寧に説明してくれます。
わたしは子どものころからずっとチーズをはじめ乳製品は嫌いで、チーズを食べられるようになったのはここ2~3年というチーズ歴の浅さ。
好きなのはパルメジャーノ・レッジャーノなどのハードチーズをアミノ酸がジャリジャリいうほど長期熟成させたものです。
そんなわたしの好みを聞いて、薦めてくれたものも含め数種類薄く切ってもらいました。
(というわけで、説明を聞いてもまだわからないときは、好みを言って選んでもらうといいですよ。)
食べてみると、
おお!!!
フランスのチーズはイタリアのチーズに全然負けていません!
さらに!普段は苦手なカビ系のものでさえ美味しかったです。
このチーズの時間、あなたがチーズ好きならとても有意義だと思いますよ!
デザート
そして遂に!
デザート(Delicacies and temptations)の時間がやってきました(祝)
まず最初にチョコレートクリームのカップが出され、それを食べている間にテーブルサイドに続々とその夜のデザートが並びます。
そして好きなものをお願いすると、ウエイターさんがお皿に綺麗な模様を描いて盛り付けてくれるのです。
もちろんいくつ食べてもいいのだけど、どれもフルサイズなので全部味見はわたしにはムリでした(涙)。
ミルフィーユは即決でしたが、もうひとつを派手なチョコレートケーキにするか、大昔お菓子の本で読んだババ(ウエイターさんが言っていた名前は違ったかも)にするか相当迷った末、ババを選択。
たっぷりラム酒をふりかけてもらって食べたババは、ラム酒を吸えるだけ吸って飽和状態のパラダイスでした。
でもね、
やっぱりチョコレートケーキも味見してみたかった、と今思います(笑)。
デザートの〆のデザート
デザートの後にまさか〆のデザート(Fantasies and chocolates)があるとは!
コーヒーと一緒に頂いて、それは幸せなディナーの締めくくりでした。
このディナーの予約は9時だったのですが、デザートが終わり、タクシーを呼んでもらってレストランを後にしたのは0時半でした。
帰りのかぼちゃの馬車、いえタクシーの中で、その夜の幸せを反芻して夢心地だったことは言うまでもありません。
ポール・ボキューズ・レストラン場所
Paul Bocuse Restaurant
40 Quai de la Plage
69660 Collonges au Mont d’Or
Tel: +33 4 72 42 90 90
Email: reservation@bocuse.fr
おわりに
ポール・ボキューズ・レストランでのディナーは、食事がすべて美味しいだけではなく、とにかくサービスが完璧でした。
食事中最初から最後まで徹底したレディーファーストが貫かれていたのも、女性のわたしがそれは気持ち良く過ごせた理由のひとつだと思います。
この食事以来、アメリカのそこそこのレストランの、上辺はレディーファーストだけど、実際はお金を払う男性ファーストなサービスが、なんだか本物に見えないというか…見る目が厳しくなってしまったかもしれません。
ポール・ボキューズ・レストランでおなかも心も満たされ、一生忘れられない食体験になりました。