カーブドッチというワイナリーが新潟にあるのをご存知でしょうか。
「新潟ワインコースト」の砂地に広がるブドウ畑で、アルバリーニョなどのヨーロッパ品種を育てるユニークなワイナリー、それがカーブドッチです。
この記事では、「動物ワインシリーズ」でも有名なカーブドッチのワイナリー見学ツアーとペアリングランチに参加したときの様子をご紹介します。
新潟で酒蔵めぐり三昧のはずが…カーブドッチのワイナリー見学
新潟といえば日本酒!
…なのですが、実はワインも面白そう、というのを知ったのは新潟へ向かう新幹線の中。
たまたま座席に置いてあった情報誌に、新潟・庄内地方のワイナリーの記事を見つけたのです。
わたしは在米なので、新潟でワインを作っているなんて、恥ずかしながら初耳でした。それに、そもそも日本でワイン作りが盛り上がっているとはまったく知らなかったので、興味津々!
なになに?新潟県上越市には川上善兵衛氏が作った130年の歴史を持つ「岩の原葡萄園」というワイナリーがある?
わたしが注目したのは、川上善兵衛氏がワインを造り始めた動機でした。
当時の北方村では”三年一作”といわれるほどの不作が続き、農民たちが苦しんでいました。善兵衛は稲作の傍らでぶどうを栽培し、ワインを作れば、農民たちを救えると考えました。
文:山内貴範 /トランヴェール10月号
先月、アリゾナワインの記事でとりあげたアリゾナワインの生みの親・ダット博士が、ソノイタでぶどう畑を始めた動機のひとつも、
ワイン用のぶどうは他の農作物と比べて少ない水で栽培できるし、ワインとして樽で寝かせておけば、穀物と同様に豊作の年に蓄えて不作の年に備えることができる…。
アリゾナワイン
おぉ!
新潟とアリゾナに同じように考える人がいたのですね。
なにか不思議な繋がりを感じ、俄然新潟ワインに興味が湧いてきました。
新潟ワインコースト
新潟市の海辺に5つのワイナリーが集まる「新潟ワインコースト」と呼ばれる地区があります。
アメリカではワイナリーが集まる地区のことをワインカントリーと呼んだりしますが、ワインコースト、良い響きではありませんか!
そして、なんと!新潟ワインコーストはもともと砂丘で、土壌は地下30mほどまで100%砂なのだそう!
砂地で育ったぶどうで作ったワイン…面白そう!
行ってみようかな?
調べてみると、新潟ワインコーストのワイナリーの中で一番大きなカーブドッチで、ワイナリー見学と、料理とワインのペアリングを楽しむランチつきのワイナリーツアーがあるではありませんか!
新潟の滞在はほんの数日でしたが、ぎりぎり日程の合う日に運よく予約がとれたので、良く晴れた10月某日、ワクワクしながら行ってまいりました。
カーブドッチへ
アメリカでワイナリーに遊びに行くときは気軽に車で行きますが、日本では確かちょっとでもお酒を飲んだら飲酒運転ということになってしまうのを思い出し、カーブドッチへは、レンタカーではなく公共の交通機関を利用することにしました。
便利なことに、カーブドッチでワイナリー見学やペアリングランチなどをするお客さん向けに、新潟駅からカーブドッチへの無料のシャトルバスが往復していますので、予約して席を確保。
ツアーの申し込みとシャトルバスの予約の電話番号が別なので、オンラインか電話一本で両方予約できると便利なんですけどね(←カーブドッチさんへの独り言です)
当日の朝、バスの出発時間より結構早く着いたのに、カーブドッチ行きの車内はカップルや女性グループでほぼ満席。
どうやら人気のツアーのようです。
新潟市内を抜けて海辺の砂丘の横を通り、出発から50分ほどでカーブドッチに到着しました。
アメリカでテイスティングをしたことがあるワイナリーのほとんどが、ぶどう畑と醸造場のそばにショップやレストランがあるスタイルなので、カーブドッチもそんなワイナリーを想像していたのですが、行ってみるともっと充実した施設でした。
カーブドッチの敷地内には、ホテル、スパ、カフェ、ベーカリー、結婚式なども可能なホールがあり、レストランは3つもあります。
日帰りでもお泊りでも遊べるイメージです。
カーブドッチに到着しバスを降りると、乗っていたお客さんの半分くらいはカーブドッチヴィネスパというホテルへ。
カーブドッチヴィネスパでは、角田山から温泉を引いていて、源泉かけ流しの日帰り温泉が楽しめるのだそう。
わたしは、ワイナリーツアーの受付をするため、カーブドッチヴィネスパの向いにあるワインショップへ。
ワインショップには、カーブドッチのワインやワインに合いそうな食品、それにお洒落なワイン小物がセンス良く並んでいます。
駐車場には、車で乗り付けるお客さんが続々到着。
カーブドッチでは、この日のワイナリーツアーは満席で、飛び込みでツアー参加しようとする人たちは皆お断りされていたようです。
ですので、カーブドッチのワイナリーを見学したい方は、できるだけ予約した方がよさそうです。
カーブドッチの砂地のぶどう畑とアルバリーニョ
カーブドッチのワイナリー見学は、ショップからスタートして、まずは角田山を臨むぶどう畑へ。
そこは、つい1週間前に収穫の終わったばかりのぶどうの株が垣根仕立てに並ぶ砂の畑です。
カーブドッチでは、この砂地の畑でヨーロッパ品種のぶどうを栽培しています。
畑の雑草は、保湿のためにあえて生やしたまま。
案内していただいた本田さんによると、一般的なぶどう畑では苗木を植えて2~3年で実がつき始めますが、砂地のカーブドッチの畑では5~6年実がつかず、最初にできたぶどうはタンニンも酸も少なかったそう。
そして、出来上がったワインはさらさらした糖分の、薄い味わいで、渋みはないけど、香りはとても良い。
そこからさらに試行錯誤でヨーロッパ品種を栽培し続けた結果、カーブドッチが出会ったぶどうが、白ワイン種アルバリーニョです。
アルバリーニョは、スペインのリアス・バイシャス地区で多く栽培されている品種。
桃やジャスミン、ライチなどを想起させる香りが特徴です。
本田さんいわく、アルバリーニョは栄養のある土地に根付くと株はどんどん大きくなるけれど、実をつけにくくなる性質を持っているのだそう。
ですが、そんなアルバリーニョを栄養の少ない砂地で育てると、逆に実をつけやすくなるそうなのです。
また、砂地で作ることで、元来高い酸度が弱まるのだとか。
結果として、ヨーロッパで飲まれている一般的なアルバリーニョより軽やかで香りの良いカーブドッチのアルバリーニョが生まれました。
本田さんのアルバリーニョの説明を聞いていると、前日からカーブドッチにお泊りで来ている女性グループが、レストランで飲んだアルバリーニョがもの凄く美味しかったと口をそろえています。
彼女たちの熱のこもった様子に、私も飲んでみなきゃ!とすかさず脳内メモ。
アルバリーニョは、はわたしの好みのヴィオニエやプティ・マンサンに似ているということなので、砂地で育てるとどんな味になるのか、楽しみになってきました。
わたしにもワインが作れそう?!
カーブドッチのワイナリー見学ツアーは、ぶどう畑から醸造所へと移動し、ワインの作り方の説明からスタート。
ワイン作りは
- ぶどうを収穫して実をはずす
- 果汁を搾る
- 酵母を入れて熟成させる
のたった3ステップ。
「簡単です。誰でもできます。」
と、本田氏。
カーブドッチでは、ぶどうの実をはずす作業と果汁を搾る作業はドイツ製の機械まかせ。
搾るのは圧をかけすぎると種もつぶれて渋みがでてしまうけれど、その辺のコントロールも上手にしてくれるマシーンなのだそう。
搾った果汁はステンレスのタンクに移され、醸造家さんが酵母を加え約4週間発酵させます。
その後、樽に移して熟成し、瓶に詰めたら、地下セラーで保管されます。
見せてもらった樽にはワインの色が染みてなかなかいいかんじでしたよ。
その後、瓶に詰められたワインがズラリと保管してあるセラーを見学。
うっすら埃をかぶった年代物のワインなど、そそられますよね!
以上でカーブドッチのワイナリー見学ツアーは終わり、ワイナリー見学のみの人はこの後ショップでテイスティング、わたしを含むペアリングランチの人たちは地下セラーから一組ずつ名前を呼ばれてレストランに案内されます。
ランチつきツアーのお客さんは若いカップルや年配のご夫婦などで、ワイン好きのカップルのデートにぴったりだなぁと思いました。
わたしはランチつきツアー唯一のおひとりさま(涙)でしたが、レストランにはひとりで優雅にワインと料理を堪能中のおひとりさま仲間が男女ともちらほらいましたよ。
カーブドッチのペアリングランチ
いよいよお待ちかねのカーブドッチ・ペアリングランチ!
砂地で育てた、恐らくアリゾナとは真逆の性質のワイン。
わくわくしながらぶどう畑が見えるテーブルにつきます。
ワインの味も楽しみですが、地元の食材を使ったメニューにも興味津々。
最初のワインはキャンベル
カーブドッチのキャンベルは控えめな泡で、少々酸っぱく、強め、若めで、アンバーっぽい色をしています。
お料理は、庄内の野菜を使ったサラダに、ぶどう色のワイン塩。
美しいプレゼンテーションで、目にも美味しい一皿でした。
カブなどは生で硬かったのですが、食感を楽しむとかまぁそんなかんじなのでしょうね。
次はシャルドネ
二番目のワインは、樽熟成6か月のシャルドネです。
料理はサーモンのミキュイ、長芋、柿のソース。
これは美味しい!
長芋は普段アメリカで使わない食材なので、外側のサクッと感とぬめぬめした食感が新鮮です。
新潟・庄内でよく使われている印象を受けた柿をソースに使っているのも面白いですね。
そしてピノノワール 2016
3番目のワインは、 ピノノワール 。
お料理は越後豚、しいたけ、緑の野菜のソテー。
越後豚が絶品で、ピノノワールとの相性がとても良かったです。
そしてデザートとコーヒー。
デザートはタルトタタンと聞いて、表面がキャラメリゼされた一般的なタルトタタンの小さいバージョンかな?と期待していたので、りんごと生地がバラバラだったのがちょっと意外でした。
ちなみに最初にパンもついてきます。
パンは日本サイズの量(=少ない)で、実はわたしには全然足りずもっと欲しかったのですが、アメリカ式におかわりを気軽に頼んでいいのかわからず、そんなこと聞くのが恥ずかしくて頼みそびれました笑
さてさて、肝心のカーブドッチワインのお味ですが、どれもサラサラとすっきりした飲み口で、あぁこれが砂地で作ったワインなのか!という味わい。
かといって、薄いとか物足りないということは決してないのです。
アリゾナのワイナリーでいただく過酷な日光を浴びまくったぶどうの力強い濃厚なワインとは正反対の位置にあるワインです。
それぞれのお料理との相性がとても良く、ゆっくり楽しめました。
カーブドッチのアルバリーニョをグラスで
カーブドッチのペアリングランチに含まれるワインは上記の3つだったのですが、ツアー中に脳内メモしておいたアルバリーニョを追加でグラスで頼んでみました。
あ、なるほど~!!!
これは美味しいです!
わたしが好きなヴィオニエやプティ・マンサンを思わせる白で、アメリカでお目にかかるもののようなとろりとした濃厚さはないけど、かと言って薄いわけでもなく。
味にちゃんと深みもあって、でもすっきりしています。
ほぉ。
これ、気に入りました。
アルバリーニョと動物シリーズをペアリングランチに入れてほしいなぁ…(またカーブドッチさんへの独り言です)
残りの午後をゆっくりワイナリーで過ごす
ランチの後は、帰りのシャトルバスの時間まで、カーブドッチ内のお店を見たり、まわりのワイナリー周辺を散歩したり、カフェでコーヒーを飲んだりして過ごしていました。
その間にひっきりなしに訪れるお客さんを観察していると、平日ということもあるのでしょうが、お洒落でよそ行きなお客さんよりは、地元から普段着でちょっと寄ってみたかんじのご夫婦や三世代の家族連れ、そしておじさんグループが意外と多いのが印象的でした。
ワイナリーが市民に親しまれている様子が良いかんじでしたよ。
カーブドッチ場所とウエブサイト
〒953-0011 新潟県新潟市西蒲区角田浜1661
おわりに
新潟ワインコーストのカーブドッチ、素敵なワイナリーでした!
今回はオーナーさんに直接おはなしをうかがうチャンスはありませんでしたが、
案内していただいた本田さんによると、オーナーさんは新潟の角田浜以外にも日本中の候補地を見て回った末、この砂地の場所を選ばれたのだそう。
「一体どうしてわざわざぶどう造りが難しい砂地を選んだのですか?」
というわたしの不躾な質問への答えは、
「普通の土地でヨーロッパ品種を作っても、ヨーロッパのワインに勝てるはずがないから。」
あえてよそのワイナリーが採用しない土壌で新しいワインを作る。
クリエイティブな発想で、不確かな未知に臨む勇気のある姿勢が良いではありませんか!
また、カーブドッチ自らの成長だけでなく、ワイナリー経営塾を運営して後続のワイナリーの育成にも力を注がれているのも好感度大。
そこから巣立った4つのワイナリーはカーブドッチに隣接して、新潟ワインコーストを形成しています。
カーブドッチと新潟ワインコースト、これからの発展が楽しみですね!
みなさんの成功を祈りながら、シャトルバスに乗ってカーブドッチを後にしました。
また日本に行く機会があれば、今度はぜひ噂の動物ワインシリーズを飲んでみたいです。
わたしが住むアリゾナ州のワイナリーの歴史も読んでみませんか?
アリゾナワイン