「ウィーンでクリムトの作品の本物を見る」は、わたしのバケットリストにずっと君臨していたアイテムです。
かれこれ20年以上夢見てきたクリムトの作品、念願かなってウィーンで見ることができました(祝)。
わたしが実際に行って見てきたクリムトを、辿ってきた順に4回にわけてお伝えしていく予定です。
- 美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)
- オーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere, Vienna)
- ブルク劇場(Burgtheater)とセセッション館(Secessionsgebäude)
- カフェ・ミュージアム(Café Museum)
では、今日は美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)に行ってみましょうか。
[toc]
美術史美術館:階段の踊り場
ハプスブルク家のコレクションをずらりと展示する美術史美術館は、その建物自体も素晴らしく、ウィーンを訪れる機会があればぜひ立ち寄ってみてほしい美術館です。
1800年後期に建設された美術館の建築には、わたしが好きな建築家のひとり、ゴットフリート・ゼンパーも携わっています。
ゼンパ―はドレスデンの誇るオペラハウス ゼンパーオーパーをはじめ、数々の美しい建築物を世に残しています。
参考記事 ゼンパーオーパー|ドレスデンでオペラ体験
この建物の階段の踊り場が、この美術館でわたしが一番見たかったものです。
制作に携わったのは
ハンス・マカルト(Hans Makart)
グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)
弟エルンスト・クリムト(Ernst Klimt)
フランツ・マッチュ(Franz Matsch)
ミハーイ・ムンカーチ(Mihály Munkácsy)
クリムトファンは、きゃ~クリムト~???と目をハートにして乗り込んでしまうでしょうが、ここはぜひ踊り場まるごとをコラボ作品としてとらえてみてください。
まず、上を見上げると、ミハーイ・ムンカーチの天井画が美しい。
やさしい色使いで、天使がふんわりと見下ろしてくれます。
上の写真がクリムトがズラリのサイドです。
ムリヤリ拡大してみます。
左から「総督」「タナグラの乙女」「パラスアテネ」、すべてクリムトの作品です。
タナグラの乙女とパラスアテネはわりとよく見かけるモチーフですね。
目線を右側へずらすと、左から「エジプトの裸像」「ミイラ」「青年」。
さらに右端には、「若い娘と幼児」「ダンテと幼児」。
クリムトの作品はほかに「ダヴィデ」と「ヴィーナス」もあります。
踊り場には誰がどこを手掛けたのか解説するプレートがあります。
ぜひこれを見ながら、ゆっくり鑑賞してみてくださいね。
なお、館内にはクリムトの絵画 Dame mit lila Schal も展示されていますよ。
クリムト以外の作品も見逃さないで
クリムトファンは階段の踊り場だけで十分満足してしまうでしょうね。
でも、この美術史美術館には名作が相当数展示されています。
それに、建物の内装も細部にわたって素晴らしいので、ぜひゆっくり時間をとって隅々までじっくり鑑賞してみてくださいね。
以下、数ある名作の中であなたに絶対に逃してほしくないものを選んでみました。
ピーテル・ブリューゲル
ピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel de Oude)は、一族から多数の画家を生み出しているブリューゲル一族の最初の画家で、ときにピーテル・ブリューゲル(父)と表記されます。
彼の数々の名作の中でわたしが特に好きなのは、「バベルの塔」(上の写真)です。
童話の挿絵的な雰囲気がメルヘンチックで、そのまま描かれた世界に引き込まれそうなかんじです。
続いて、バベルの塔と同じく知名度が高いのが、「農民の踊り」などの農民シリーズ。
独特のタッチと色使いで、一目見るとすぐに、あ、これはブリューゲル!とわかりますね。
上の写真は「農民の踊り」。
左下のキャラクターだけミニサイズなのが気になるのはわたしだけではないハズ^^
なぜかご存知のかた、教えてください!
この「農民の踊り」と「農民の婚宴」も美術史美術館で見ることができます。
美術史美術館のブリューゲルのコレクションはとても充実しているので、ブリューゲルファンの方は必見です。
ディエゴ・ベラスケス
この美術史美術館で、スペインの巨匠ディエゴ・ベラスケス(Diego Velázquez)の王女マルガリータに会えますよ!
上の写真「白いドレスのマルガリータ王女」は5歳の王女の肖像画。
まるでお人形さんみたいですね。
マルガリータ王女はスペイン王フェリペ4世の娘で、15歳のとき11歳年上の神聖ローマ皇帝レオポルト1世と結婚しました。
ベラスケスが描いた王女の肖像画は、2歳のころのものをはじめとして何枚もあり、どれも愛らしい姿が有名です。
その中で、3歳、5歳(上の写真)、8歳のときの3枚は、レオポルト1世との政略結婚のためのお見合い用としてウィーンに送られたもの。
それが現在もウィーンに残っていて、この美術史美術館で見ることができるのです。
3歳のお見合い写真とか、近親婚(レオポルト1世はマルガリータの母親の弟なので叔父にあたる)とか突っ込みどころ満載なのですが…。
そんなことはともかく、美術史美術館にはベラスケスファンに嬉しいベラスケスの壁があります。
下の写真、左端が3歳のときの王女マルガリータ。写真には写っていませんが8歳のマルガリータの肖像画もあります。
そして右端は、ドレスを着ているので王女かと思いきや、王女マルガリータの弟、皇太子フェリペ・プロスペロです。
父フェリペ4世には、王女マルガリータとフェリペ・プロスペロ王子をはじめ6人の子どもがいましたが、マルガリータと末っ子のカルロス以外は病弱で幼くしてこの世を去っています。
絵に描かれたフェリペ・プロスペロ王子も、例にもれず大変病弱でした。
そこで、王家ではスペイン・ハプスブルク家の継承者である王子になんとか健康に育ってもらうべく、名高い医者や祈祷師を呼び寄せたり必死だったのです。
この絵の中の王子、アクセサリーをいろいろ身に着けていますが、あまり見かけない飾りだと思いませんか?
というのも、王子が身に着けているのは、魔除けの鈴と伝染病除けのハーブ入れなのです。
絵のためにポーズをとる間も取りはずされなかったのですから、王子のまわりのひとたちの真剣さが伝わってきますね。
しかし残念ながら、あらゆる努力の甲斐なく、王子は4歳になる直前にこの世を去ります。
ところで、ラヴェル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ(Pavane pour une infante défunte)」をご存知ですか?
しっとりした響きが美しいピアノ曲です。
ラヴェルはマルガリータ王女の肖像画からインスピレーションを得てパヴァーヌを作曲したといわれています。
だけど、わたしには、フェリペ・プロスペロ王子の絵と亡き王女のためのパヴァーヌがぴったりに思えてなりません。
ルカ・ジョルダーノ
以上はメディアでもよく見かける超有名作品ですが、わたしが知らなかった絵で強烈な印象を残したものがありました。
これです。
大天使ミカエルと叛逆天使たち(St. Michael Vanquishing the Devilsaround)。
結構大きなサイズなのですが、わたしはこの絵の前で雷に打たれたかのように釘付けになりました。
(大げさなようですが、本当にそんな衝撃だったのです!)
な、なんなの、これ!!!
こんなに優雅に軽やかに誰かを踏みにじっているなんて!!!
こんな絵は、ほかのどこでも見たことがありません!
なんだか、フフフ~ン♪と鼻唄を歌いながら華麗に踊っているように見えませんか?
説明書きによると、大天使ミカエルが、神に逆らおうとした天使を地獄の淵に突き落としているところなのですね。
優雅に。
軽やかに。
いやぁ、凄すぎます。
作者は、ルカ・ジョルダーノ(Luca Giordano)。
恥ずかしながら、その日までわたしはこの画家のことを知りませんでした。
調べてみると、ルカ・ジョルダーノは、フィレンツェのメディチ・リカルディ宮 のフレスコ画をはじめ、数々の名作を残したバロック後期のイタリア人画家。ナポリ派の巨匠です。
この日以来、大天使ミカエルと聞けば、わたしが心に思い描くのはこの天使です。
この美術館でこの絵を知ることができて、本当によかったです。
美術史美術館 住所とウエブサイト
おわりに
美術史美術館、いかがでしたか?
クリムトファンの方だけでなく、すべての美術ファンに逃してほしくない美術館です。
ぜひたっぷり時間をとってお出かけくださいね。
次回はオーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere)です。お楽しみに?
ほかのウィーン記事も読んでみませんか?
美術館巡り