わたしが住むアリゾナ州の都市ツーソンは、知る人ぞ知る食の都市です。2015年、ユネスコから「食文化創造都市(City of Gastronomy)」認定を受けて以来、アメリカ国内でもグルメな街として注目度が高まっています。そんなツーソンの歴史に培われた食文化をご紹介します。

ユネスコが認める食の都市ツーソン

サワロサボテン
ツーソンに自生するサワロサボテン
Credit: Yuki Kai

先週、ツーソンで開かれた世界のグルメ都市の食の会議に通訳として参加させてもらったのですが、その準備中に衝撃の一文に出会いました。

Tucson earned a UNESCO “City of Gastronomy” title in 2015.

え!

ユネスコって、あの世界遺産の?

…ツーソンって、そんなに凄いの?!

ユネスコは、教育、科学、文化の分野での国際的な知的協力や途上国への開発支援事業を行っている国連機関のひとつ。

あなたも「〇〇がユネスコ世界遺産に登録されました!」といったニュースを耳にしたことがあるのでは。

ユネスコでは世界遺産以外のプロジェクトも多数進行中で、そのひとつが「創造都市ネットワーク(Creative Cities Network)」です。

その中に食文化(ガストロノミー)創造都市の分野があります。

そして、2015年にアメリカで初めてユネスコ食文化創造都市に認定されたのが、わたしが住むアリゾナ州の都市、ツーソンなのです。

アメリカで唯一のユネスコが認める食の都市ということで、当時「一体どうしてツーソンなんだ?」と全国的にも話題になったようです。

実は、わたしはツーソンに住んでいるのにこのニュースのことをまったく知らず、今さら知ってとても驚きました。

現在では、テキサス州のサン・アントニオが、2017年に新たに認定され、ツーソンに続いてアメリカで2番目のユネスコ食文化創造都市となっています。

ちなみに、日本では山形県鶴岡市がユネスコ食文化創造都市として登録されていますよ。

ユネスコ食文化創造都市リスト(wikitravel.org)

ユネスコ創造都市ウエブページ

ツーソンがユネスコに認められた理由

では、ツーソンの一体何がスゴくてユネスコ食文化創造都市に認められたのでしょう?

ツーソン観光のマーケティングを担当する非営利団体 Visit Tucson によると、ツーソンがユネスコに認められた主な理由は次の3つ:

  1. ツーソンの豊かな農業遺産
  2. 今なお受け継がれる食の伝統
  3. 料理の特殊性

As the city’s press release puts it, we were selected for “our region’s rich agricultural heritage, thriving food traditions, and culinary distinctiveness,” but there’s so much more to both Tucson than that.

出典 visittucson.com

ツーソンの歴史って、実はものすごい年月をさかのぼるんです。

およそ12,000年前(日本は縄文時代)、旧石器時代にはパレオ・インディアン(古代先住民族で現ネイティブアメリカンの祖先)がツーソンエリアを訪れていたといわれています。

また、サンタクルーズリバー(Santa Cruz River)近くでは4000年以上前の紀元前2100年頃の集落跡が発見されていて、そこにはすでに農業がスタートしていた痕跡が見られます。

特に紀元前1200年から西暦150年頃(日本は弥生時代)には、川の氾濫原(洪水時に水があふれる低地;floodplain)で広く農業が営まれていて、トウモロコシや豆などが栽培されると同時に、野生の食用植物や木の実が採取されたりしていました。

ソノランドッグ
BK Tacos のソノランドッグ
Credit: Yuki Kai

異文化の影響も食べ物に反映されています。

たとえば、ソノランドッグはアメリカのホットドッグ用のソーセージとバンが国境を超えてメキシコにわたり、

ソーセージにベーコンが巻かれ、ビーンズやピコデガヨ(トマト、玉ねぎ、シラントロのサルサ)とともに、ソノランドッグとして再び国境を超えてアメリカに戻ってきました。

参考?【ツーソン】BK Tacosでメキシコ料理を食べる

また、キノ神父をはじめとするスペイン人の宣教師たちによってツーソンに持ち込まれた小麦が今なお栽培されていますし、

参考?【ツーソン】Barrio Bread がツーソンに愛されるワケ

ウチワサボテン(prickly pear cactus)の実は、ジャムや肉料理のソースになったり、地ビールに使われていたりもします。

特にウチワサボテンの実を使ったマルガリータやミモザは、綺麗な色と爽やかな風味で人気のツーソンらしいカクテルです。

ウチワサボテン
ウチワサボテンの実

食べ物にまつわるイベントも年間を通じて開かれています。

市内のあちこちで開かれるファーマーズマーケットをはじめ、軽く20を超えるフードフェスティバル(Tucson Meet Yourself、 Viva La Local、Agave Fest、Tamal Heritage Festivalなど)やフェア、テイスティングイベントでは、ツーソンの地方料理や食の伝統が反映された料理を味わえます。

中でもTucson Meet Yourself では、音楽、ダンス、クラフトなども同時に披露され、ツーソンだけでなく多様な文化の入り混じる文化交流のイベントとして、毎年10万人以上の参加で賑わいます。

わたしもこのイベントでたこ焼きの出店を手伝ったことがありますよ^^

参考?アリゾナで「たこ焼き」Takoyaki Balls

さらに、料理界のアカデミー賞ともいわれるジェームス・ビアード賞などの受賞歴のあるシェフが先頭に立ってツーソンの食のシーンを盛り上げていたり、

大手チェーン店ではない個人経営のレストランが、地元の食材を使って伝統的な料理と今の時代に合わせた料理を創り上げています。

カルネ・アサダ
Charro Steak のカルネ・アサダ
Credit: Yuki Kai

それに、かつては雑草のはびこる荒地だった土地を利用して農場を作り、そこで取れた農作物を市内のレストランが買ってお店で出すメニューに取り入れたり、

非営利団体 Native Seeds/SEARCH が、ツーソンに自生する食用植物の種を保存/販売したり、

17世紀にイエズス会の宣教師キノ神父が作った畑を再現したり…。

こんな風に、ツーソンが食の都市だとユネスコを納得させる事例はエンドレスで続くのです。

ツーソンがユネスコに認められた理由、それは、ツーソンが何かひとつの特別な目玉料理を持つ都市だからというわけではなく、ツーソンという都市を培ってきた歴史、文化、伝統が織り成す食文化が今なお現存し、その食文化が今後も継承し発展させるべき価値のあるものだからといえるのではないでしょうか。

ツーソンの食文化を体験してみる

もしあなたがアリゾナ州に来る機会があったら、ぜひツーソンにも足をのばして、ユネスコが認めるツーソンの食文化を体験してみませんか?

ツーソンは街の規模のわりに美味しいお店が多いと言われています^^。

お店選びにはこの記事も参考になると思います。

観光のプロが選ぶツーソンらしいレストラン

おわりに

ユネスコが認めるツーソンの食文化、いかがでしたか?

今回ユネスコ食の都市のことを知って、最近ツーソンはグルメな街として全国的にも注目度が上がってきてるなとは感じていましたが、こんな背景もあったのね~!と納得しました。

食文化という形のないものに与えられた街の栄誉、素敵ですね!


もっと知りたい方へおすすめの記事?

Smithsonian.com:
What Makes Tucson Deserving of the Title of the United States’ First Capital of Gastronomy by Jennifer Nalewicki

UNESCO Creative Cities Network:
Tucson

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